「あとがき」がない!
「まいったなあ——」
思わず口をついて出た.その男は太い指で頭をごりごりと掻き,
「まいったなあ」
と,繰り返した.
男の手には新書本が握られており,その背には「闇狩り師」と書かれているのが読める.
《新装版》
そう書かれていた.
男は,Amazonから届いたばかりの新書を箱から取り出し,今まさに読まんとしていたのである.いつものように,本の最後の数ページを確認し,先程の声を上げたのだった.
笑った口元のようなマークの記された箱が,男の足下に転がっていた.
もう一度確認するように,男は後ろからぱらぱらと本をめくり,
「うーん」
と唸った.納得しかねる,といった声であった.
その新書の最後には,その新書本の筆者と,挿絵画家との対談が収録されていた.だが,男が期待していたのはそこではない.確かに対談は面白いであろうことは想像できるし,楽しみでないというのは嘘だ.
ただ,男の期待していたのはそれではない.
男の嘆息は,当然あって然るべきものが無かった時のそれであった.
そこにあるべきものがごっそりと抜けていた.そこに男は強烈な違和感を感じたのである.
男はそこに「あとがき」があることを期待していた.だが,そこに「あとがき」は存在していなかった.
「まいったなあ」
本当にまいったなあという声でそういうと,男は新書本を閉じ,キーボードを叩き始めた.
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どちらにも「あとがき」がなくてちょっと残念でした.