2章:シナリオ作成

以前『シナリオ作成支援システム』として発表したものをまとめておきます。

2章:シナリオ作成
第2章
シナリオの作成という事について

 この章は、主にシナリオを作成するという話題について述べられています。この章で語られる内容は1章で語られた内容に基づいています。
 具体的にはこの章を通じて、各種の『ストーリーライン』を、基本進行式に基づいた、シナリオという形式に組み上げていくという作業を行います。つまり、シナリオ作成における、より細かい部分を決定するということです。その際に必要となる作業をはじめとする各種の設定を解説しながら進めるする事にしましょう。
 ただし、このサプリメントで記す事が出来る事項には限界があります。より細かく、バリエーションを持つ部分については各人で追及する必要があると思います。


第1節:シナリオの内容を決定する前に

シナリオの方向性の設定 
 まず、シナリオを作成する以前に、必ず行わなければならない作業を行う事にしましょう。それはセッション中で「どのような事をPCが行うか」を設定する事です。
 これは『ストーリーライン』を決定することと同義です。1章で解説された、6種類の基本形をそのまま選択するか、それぞれの組み合わによって成立するストーリーラインから選択を行う訳です。単に選択するだけでこの作業は完了しますが、最初の内はなるべく単体か、単純な組み合わせのストーリーラインを選択するべきでしょう。
 ただし、今までにプレイヤーがセッションを経験している場合は、前回とは異なるストーリーラインを用いる方が、より新鮮な気分でプレイできるでしょう。


「当事者」の目的
 ストーリーラインを選択した時点で、プレイの際の狂言回しとなる「当事者」の目的の方向性についても、ほぼ自動的にその範囲が決定されます。
 ところで、なぜ「当事者」の目的なのでしょうか? ストーリーラインが決定されたならば、次に「事件」そのものを設定する方が良いのではないかという疑問が当然生まれて来ます。しかし「事件」よりも「当事者」の目的の方を先に決定した方が解り易いのが事実です。なぜならば「事件」は、「当事者」の目的と比較して、より多くの情報が含まれてしまっているからです。
 ここでは「事件」を設定するために、まず、その本質である「利害関係」を先に決める事にします。そしてその「利害関係」によって「当事者」の目的が代表されるのです。
 今回のサプリメントでは、選択したストーリーライン毎に「当事者」の目的の例が付録として記載されています。
 シナリオ作成に慣れない内は、例に含まれているものから「当事者」の目的を決定すべきです。なぜならば、キャラクターを取り巻く状況を設定するための労力が、それらの例を使った場合とそうでない場合とで、大幅に異なってくるからです。例として挙げられているものはストーリーラインと当事者の目的が矛盾しないものがほとんどです。ストーリーラインと対立する要素の少ない「当事者」の目的は、シナリオをスムースに構築するために大いに役に立つのです。これについての具体的な説明は後述します。
 では、ストーリーラインと「当事者」の目的との関係を見てみましょう。ストーリーラインと「当事者」の目的という二つの目的は、シナリオを作成する側から言えば、マスターレベルの目的とキャラクターレベルの目的と言い換える事ができます。この二つの目的の間のずれが小さい場合は、シナリオの設計は比較的易しい作業になります。
 例を出して解説しましょう。『探索』という『ストーリーライン』を選択した場合に、『ある情報の収集』という「当事者」の目的(探索的な目的)を選んだとしましょう。この場合には比較的混乱の少ないシナリオ構築が可能になります。
 その例から導かれるシナリオレベルでの例を考えてみましょう。状況は以下の通りです。
「自分の両親についての知識を得たい「当事者」が、探偵(PC)に対して両親についての情報を集める依頼を行い、探偵はその情報を効率的に収集する」
 このようなシナリオは、極めて素直な状況です。同様の例をいくつか挙げましょう。

「犯罪者を逮捕するために上司が部下(PC)の警官に、その居場所を探すように命令する」
「迷子の子供の親をPCが探す」
「教授に言いつかった学生(PC)が、コンパ当日に飲み屋を探す」
 これらの状況は、マスターレベルの目的と「当事者」レベルでの目的とが近似している(ずれが少ない)ために、比較的簡単にシナリオを設計する事が出来るのです。
 逆に、ストーリーラインと「当事者」の目的とが大きくかけ離れている場合には、その双方の目的が両立する状況の設定するために、相当頭をひねる必要があるでしょう。

 例えば、PCが『耐久』するというストーリーラインを選んだ場合に、『問題解決のための知識が欲しい』と考えている(探索的な目的)「当事者」を設定するという状況は、シナリオ設計において、決して不可能ではありませんが、設定するのは難度の高い作業です。
 特にシナリオを作り慣れていない初心者は、マスターレベルと「当事者」レベルの両方の目的を、同時に成立させるのが困難な状況を設定するのは避けるべきです。そのような状況を設定できたとしても、マスタリングにおいて矛盾が発生し易く、結局は扱い切れなくなる場合が多いからです。
 付録のストーリーラインは、ほとんどが素直な(つまり、マスターとキャラクターの目的の間のずれが小さい)状況を扱ったものです。最初はこれらの例を用いて、状況の設定に慣れるべきでしょう。


「事件」に対する各種設定
 ストーリーラインを決定し、「当事者」の目的がはっきりした段階で「事件」を決定します。この「事件」を設定する手掛かりとなるものは、先程決定した「当事者」の目的です。
 「当事者」が直面している「事件」の本質は利害関係であるという定義に従いましょう。つまり、それらの「事件」を解決することが「当事者」の目的になる訳です。「事件」自体はそれらの目的から逆に導く事が可能でしょう。「事件」を具体的なものにするには以下の各項目を決定する必要があります。

「事件」の規模の決定
 「事件」は様々な規模で起こり得ます。個人的なものから世界規模までの各種のレベルがあるでしょう。それについて決定して下さい。規模によっては一回のシナリオでは解決不可能である場合もあります。

「事件」の発生時期の決定
 「事件」がいつ発生したかを決定して下さい。「事件」はどの時代のいつ頃に起きたものなのでしょうか?
 可能な限り正確な時期を設定してください。

「事件」の起きている場所の決定
 「事件」がどこで起きているかを決定して下さい。『蒸気!』であれば倫敦市内がメインになるでしょう。可能な限り具体的に決定して下さい。また、ここでの決定事項がキャラクターが移動可能な場所についての制限にもなります。

期限の決定
 「当事者」にとって「事件」を解決しなければならない期限を決定する必要があります。この制限によってPCが行動できる期間が設定されます。「事件」の解決はその期間に行わなくてはなりません。この期限の制限は精密に行われる必要があります。

「事件」を構成する人物などの決定
 「事件」の中心にある「当事者」の目的は、周辺の事象を巻き込んでいる場合が多くあります。「当事者」を囲むのキャラクター・団体などについての設定を行います。なぜ「事件」に関係しているのか、「当事者」との関係などが記されます。

「当事者」と「事件」の関係の決定
 「当事者」はなぜ「事件」と関っているのか、「事件」が解決された場合、されなかった場合に「当事者」の立場はどのようなものになるのかを決定して下さい。

「事件」解決の手段
 この設定は既に半分行われているも同然です。つまりPCが行う行動、先程選択したストーリーラインこそが「事件」解決の手段となります。そのための理由付けを行って下さい。


主要NPCについてのデータの決定
 無事に「事件」の要素が決定されました。では次に決定するべきはシナリオに登場する主要なNPCについての具体的な要素です。例えば外見的な要素(身長、身体つきなど)、社会的な要素(身分など)、癖、などの細かい部分が決定されることになります。これらの特徴は必然的に決定される場合もあります(推理の材料として髪の毛の色が関係している場合など)が、ランダムに決定しても良い場合があります。その場合は『蒸気!』のルールブックなどの巻末に付属している『D%表』を用いて決定する事ができます。
 また各キャラクターの能力値、技能などのデータについても用意する必要があります。

コラム:ストーリーラインの宣言
 決定したストーリーラインについては、必ずしもプレイヤーに対して宣言する必要はありません。しかし、ストーリーラインの宣告を行う事で、プレイヤーがシナリオ中でどのようにキャラクターを動かす様に期待されているかを把握し、その結果、役割を果たし易くなるという事はいえるかもしれません。


第2節:プロローグフェイズにおける準備

 プロローグフェイズは基本進行式の中では、PCが登場しないフェイズであると定義されています。しかし、このフェイズはプレイヤーをシナリオに導入するための大事な段階だと言えます。

プロローグフェイズにおいて必要な準備
 プロローグフェイズにおいて必要となる準備はプレイヤーに対する導入です。このフェイズでは先程の第一節の終盤で決定した「事件」についての設定の内、時期や場所についての情報をプレイヤーに公開できる形でまとめて下さい。
 また、舞台についての描写を行う事で、プレイヤーが具体的なイメージを持つため、実際のプレイの際の導入が行い易くなります。そのための準備を行う必要もあるでしょう。例えば『蒸気!』であれば、サプリメント『The Age of Monochrome...vol.2』の56ページから始まる『倫敦短報百連発』から適当な記事を引く事で、比較的簡単にその当時の市中の雰囲気を表現する事ができます。
 この段階はゲームの雰囲気を盛り上げる必要がありますから、映画的な演出としてPCが関る以前の「当事者」の描写を用意したり、BGMや、世界観を表現するグラフィカルな資料を用意したりするという作業をしても良いでしょう。


3節:導入フェイズにおける準備

 プロローグフェイズがプレイヤーをシナリオの世界に導入する過程であるとするならば、導入フェイズはPCをゲームに導入する過程であると言えます。
 PCをシナリオに導入するためには幾つもの方法があります。その中でも利用価値の高い導入の方法を解説します。


PCと導入
 あらゆるストーリーライン、そしてあらゆる「事件」、そしてあらゆるキャラクタータイプのPCに関して、シナリオへの導入が必要になります。なぜならば、導入されない限り、PCがシナリオに参入することは不可能だからです。何故ならば「事件」とPCの関係を考えてみれば当然です。1章でも記した様に『PCはあくまでも「事件」に後から参入する部外者に過ぎない』のです。
 それ故このフェイズでは、各PCがどのように「事件」と関る事ができるかという点が問題となります。
 ゲームマスターは、ストーリーラインや「事件」の質などを考えながら、矛盾しない導入部を考えなくてはなりません。このフェイズがきちんと処理されないと、いつまでもゲームが開始されないという事態が引き起こされる事になります。


一般的導入
 「事件」への導入を行うに当たって、あらゆるキャラクタータイプに使用する事が出来るパターンについて考えてみましょう。このパターンの導入を「一般的導入」と呼ぶことにします。
 このパターンの導入はどのキャラクタータイプに対しても用いる事が出来る便利なものです。しかし、導入の際にPCが断る可能性があったり、偶然に基づくものだったりと強制力と説得力に乏しいきらいがあります。
 一般的導入には以下のような種類があります。それぞれについて代表的な例を挙げましょう。

利益に依存した導入
 「事件」に関る事で、愛情・金銭・物品・名声・好奇心などが満たされる

感情に依存した導入
 「事件」に関して自分が被害を受ける
 「事件」に関して自分の友人が被害を受ける
 「事件」に関して恋人・配偶者が被害を受ける

偶然による導入
 「事件」の「当事者」による一方的な追跡
 「当事者」と外見が良く似ている
 「事件」関係者によるPCの所持品のすり替え
 偶然「事件」に巻込まれる


社会的導入
 一般的導入は、確かに用いる対象を選びません。しかし、多くのPCをシナリオに導入するために用いるには限界があります。また、導入は、誰もが(例えいやいやながらでも)納得できる理由を挙げる必要があります。一般的導入にはこの部分が弱いものが多くあります。では、どのような導入方法を用いれば良いのでしょうか? このような条件を満たす導入の方法の一つとして『社会的導入』があります。
 社会的導入は、いわば強制的な導入です。プレイヤーが納得せざるをえない理由を提出し、シナリオへの導入を行うのです。この導入を用いれば、PCは「事件」に関る事を拒む事は出来なくなります。なぜでしょう?それはPCの社会的な立場を利用した導入だからです。PCをシナリオに導入する際に、鍵となる部分は何でしょうか? それは社会的な立場です。仕事関係・職業関係・上司の命令などの、そのPCにとっての社会的な立場を利用して、シナリオへと導入するのです。
 社会的な導入は基本的に現代的な役割分担のある社会での導入の方法だと考えられます。
 今回のサプリメントでは、巻末に、『蒸気!』のキャラクタ−タイプのための社会的導入の例を添付してあります。


4節:追及フェイズに関する準備事項

 追及フェイズでは、それぞれのストーリーラインに従った情報、及びその入手のために必要な課題などの設定する必要があります。プレイにおいてはこの部分が最も長いフェイズになります。

情報について
 このフェイズでは情報と課題が大きなファクターとなります。まずは情報についての性質を理解し、シナリオの作成に生かしましょう。

「核となる情報」の設定
 PCは追及フェイズで各種の情報を入手することになります。その中でも、それを入手せねばシナリオが完遂しないような、重要な情報を「核となる情報」と呼びます。『事件』を解決するための手段となるために深く関る情報であったり、より有利に事を進めるための情報であったりします。つまり『事件』にとって重要性の高い情報が「核となる情報」です。
この「核となる情報」は『記憶』もしくは『記録』の形を取ります。それぞれは以下の様に定義されます。

記憶:情報が、人間をはじめとした知的生命体(及びそれに準じるもの)の記憶に存在する場合です。

記録:情報が、書籍・雑誌・新聞・映画・VTR・プログラムカルテ・日記・メモ・走り書き・写真・写本・粘土板などの記録媒体に記録された場合です。


ストーリーラインと「核となる情報」
 シナリオの準備として、ストーリーラインに合った「核となる情報」を、複数種類用意せねばなりません。ここではストーリーラインと矛盾しない「核となる情報」の例を記載します。

対抗のストーリーライン
 勝利条件
 勝利を得るための方策
 相手についての情報
 今までの経緯
 など

探索のストーリーライン
 対象は何であるのか
 対象はどこにあるのか
 どうすれば発見する事ができるか
 手に入れるにはどうしたらいいか
 何を探索すれば良いのか
 など

移動のストーリーライン
 休息場所
 地理
 移動のための道のり
 近道
 追っ手についての情報
 味方についての情報
 など

耐久のストーリーライン
 食料・金などのリソースを得る方法
 耐久のために必要なものは何か
 耐久の苦労の軽減方法
 など

防護のストーリーライン
 対象を護るための理由
 追っ手についての情報
 追っ手がなぜ追うかについての情報
 守るのに効果的な方法
 護るのに効果的な場所
 など

奪取のストーリーライン
 奪取までの手順
 奪取対象についての情報
 奪取する理由、事情
 奪取対象の存在場所
 など


「核となる情報」を与えるために
 「核となる情報」を設定出来たとしても、PCがきちんと入手できなければ無駄になってしまいます。シナリオの完遂も難しいでしょう。
 しかし、シナリオを開始した当初から、全ての「核となる情報」が判明していたら、シナリオとして不満足な出来になってしまいます。それはプレイヤーの達成感と大きな関係があります。キャラクターとしては楽でしょうが、プレイヤーとしては余り面白くないでしょう。なぜなら適度な手応えが無いと、プレイヤーとしての達成感が得られないからです。きついシナリオよりもゆるすぎるシナリオの方が、よりつまらないシナリオだと感じる場合が多くあります。
 ですから、きちんとした手続きを踏み、その結果として「核となる情報」が全て入手できるようにシナリオを練らなくてはなりません。努力が実るようにする訳です。逆にマスターとしては、どのように情報を与えるかの準備をせねばならないのです。


「ポインタ」について
 「核となる情報」をPCに与えるには、その情報が何処にあるか、どのようなものなのかなどについてをPCに伝達する必要があります。このような情報の内容や所在などを指し示す情報を「ポインタ」と呼ぶ事にしましょう。
 基本的に、PCがシナリオにおいて最初に接する「ポインタ」は「当事者」です。「当事者」は必ず目的を伝達する必要があります。「当事者」が何も伝達しない場合、PCは何も行動する事が出来なくなってしまいます。「当事者」が、まず最初の行動に必要な情報を与える事で、シナリオは進行を始める訳です。
 「当事者」がPCに与える情報を決定しましょう。その中には「核となる情報」を含ませても良いと思います。


「核となる情報」のために
 PCが「核となる情報」を得るようにするためにはどうしたら良いのでしょうか? そのためには前述の「ポインタ」を具体的に示すという方法が有効です。
 しかし、「ポインタ」そのものは扱っているシナリオによってかなりのバリエーションが考えられるため、一般化はできません。また、「ポインタ」が何処に存在するか、どうやって入手する事ができるかなどについては、基本的にゲームの扱っている社会に依存します。

例)
ある建造物の平面図という「核となる情報」は何処に行けば入手できるか?

 この場合の『何処に行けば入手できるか?』の部分が「ポインタ」に相当します。
 この「ポインタ」を入手するためにはさまざまな方法がありますが、基本的には情報の集積する場所にアクセスする必要があります。情報の集積場所については後述します。


「ポインタ」の種類
 「核となる情報」と同様に、「ポインタ」も『記憶』もしくは『記録』の形を取ります。さらに「ポインタ」に特徴的なものとして、『推測結果』が存在します。推測結果は以下の通りに定義されます。

推測結果:目の前で起きた現象や、物質などから求められた推理・推測の結果が「ポインタ」となるものです。

 あらゆる「ポインタ」は『記憶』『記録』『推測結果』の3種類のいずれかに相当します。PCはこれらの「ポインタ」を1種類以上入手し、「核となる情報」に迫る必要があります。PCの行動によって「ポインタ」の入手方法は変化します。ですからマスターは一つの「核となる情報」のために、複数の「ポインタ」を準備する必要があります。
 それぞれの「核となる情報」を得るために必要と考えられる「ポインタ」を設定するためには、どのようにすれば情報を得られるかを決定せねばなりません。


情報はどこにあるのか?
 これは情報の蓄積する場所についての情報です。「核となる情報」と「ポインタ」の両方が、ここで挙げられている場所に蓄積している可能性があります。
 また、これはゲームの扱っている社会に依存します。『蒸気!』では以下のような場所に情報は蓄積されます。これらの場所において自らの欲する情報を的確に検索する事は、TRPGにおいて重要な要素になっています。

記録
 記録は記録された時点の情報をそのまま保持しています。図書館ではメジャーな本であれば大抵のものは閲覧することができるでしょう。また、人の移動の記録などは役所に管理されている場合も多いでしょう。
 記録が保管されている場所の例としては、公設図書館、私設図書館、新聞社などの資料室、警察資料室、研究者の個人研究室、大学研究室、博物館、各種役所の記録保管室、情報サーバ、官庁資料室、研究者の自宅、個人の書斎などが挙げられます。

記憶
 基本的に人の記憶です。つまり記憶している人間がどこに存在しているかを決定すれば良いでしょう。例えば、パブ、クラブハウス、教会、市場などは人が定期的に集まる場所です。しかし、目的の情報を記憶している人間を探し出し、その記憶を語ってもらうには、また別の問題もあるかもしれません。

推測結果
 推測結果は誰かが推測を行った結果です。つまり、誰がその推理を行うかによってその信頼性の度合いは変化します。推理を行うのは基本的に人間です。「当事者」、PC、専門家の3種類が主に推測を行うことになります。「当事者」は「事件」に関しての専門家と言うことも出来ます。つまり、専門家の存在する場所についてを決定すれば良いでしょう。専門の知識や技術を持っている人間は、その知識や技術を生活の糧にしている場合が多く、また優秀な専門技能を持つ人間はその専門分野では名前が売れている場合も多いでしょう。時間と興味があればPCの手助けをする可能性があります。


課題について
 このフェイズで情報とならんで重要なのが「課題」です。TRPGでは適切な難度の課題をクリアするという過程が楽しみの大きな部分を占めます。情報を入手する、また、アイテムを入手しようとする際に、乗り越えなくてはならない課題をきちんと設定するのもシナリオ作成の重要な部分です。


PCに対する課題
 シナリオには、PCが障害を克服するという要素が含まれている場合が圧倒的です。また、鍵となる情報や、物品などを入手する場合に、障害を排除したり迂回したりという手段を経なくてはならないというのは日常でもよく体験する事です。
 一般的なフィクションに共通する法則に従うならば、ある重要な事実の核心に触れるような情報は入手するのに苦労するという経験則が成り立ちます。しかし一方で、適切な入手経路を把握する事で、一見入手不可能とも思われる重要な情報にもアクセスできるという経験則も存在します。
 このような事実からも、ストーリーには(そして主人公には)課題が必要であるということが理解されます。小説とは異なり、自分で参加するメディアであるTRPGにおいては、課せられる難題を乗り越えるのは、紛れもなく自らがプレイするPCです。適当な難度の課題をクリアする過程の没入感は極めて重要なファクターとなります。


 追及フェイズのための準備はここまでで完了します。「核となる情報」とそのための「ポインタ」を準備し、その後でそれぞれの情報などを入手するために乗り越えるべき課題を用意するという順序で設定するのが良いと思います。
 実際の設定の手順は、第4章実践編を参照して下さい。


第5節:解決フェイズのための準備

解決フェイズとは

 解決フェイズは『PCの「事件」解決レベルをチェックするフェイズ』です。マスタ−は、シナリオの準備として、その点を念頭に置かねばなりません。


解決フェイズのための準備

 マスタ−がシナリオを作成する時に、PCの行動については想像を行う事しか出来ません。シナリオを作っている段階では、どんな行動が行われるかを推測する事は出来ても、その推測の通りにPCが行動する事は保証されません。
 故に、マスタ−が用意した解決策以上の解決方法が提出される可能性も、逆に全く解決策が提出されない可能性も在る訳です。考えもしなかったようなミスが発覚し、全ての行動が無駄になる可能性もあります。
 それでもシナリオを準備するという作業は必要です。逆に進行が不確定であるからこそ、シナリオを丁寧に作る必要があるのです。

 このフェイズからシナリオは収束を開始します。解決フェイズはシナリオの終結へ向けての第一段階のフェイズです。この段階をきちんと準備しなければ、シナリオのスム−スな収束は不可能になります。
 ではこのフェイズのために、どのように準備を行うべきなのでしょうか?
 先程も記したように、TRPGでは完全な準備を行う事は不可能です。しかし、PCの行った行為をチェックし、きちんとした対応を準備する事は、PCの行為をシナリオの進行に反映するためにも重要です。故にこのフェイズでは、最初に解決の結果を大雑把にレベル分けします。
 

シナリオの目的と解決
 解決の結果を分類するためには、シナリオにおいて何を解決する事を目的としたかを、きちんと再確認する必要があります。ではシナリオの解決とは、一体何を指すのでしょうか? 今まで解説して来た文脈でいえば、「解決」とは、それは「当事者」にとって「事件」がどう変化したかに当たります。「解決」の度合に関するチェックもまたそれを基準としなくてはなりません。
 このサプリメントでは、「事件」は、「当事者」にとっての利害の絡んだ状態と限定されています。この「事件」に対する解決は、『PCにとっての解決ではなく、「当事者」にとっての解決である』という点に注意して下さい。
 さて、解決フェイズで語られるべき内容は、当然ながら「プロローグ」の段階で決定されている「当事者の目的」と対応します。「当事者の目的」については、***ペ−ジを参照して下さい。その段階で設定しておいた「当事者の目的」が、どの程度果たされたかが判定されるという事になる訳です。


解決レベル

 このフェイズでは、「当事者」にとっての目的がきちんと果たされたか、また、果たされたとしてどの程度の達成のレベルであるかが判定される事になります。この事件解決の達成のレベルを、「解決レベル」を称する事にしましょう。シナリオはこの解決レベルによって結末が変わるように作成しなくてはなりません。上手に当事者の目的を果たした者のたどる道と、大きなミスをし、結果として目的を達成できなかった者のたどる道は同じではないのです。シナリオの作成段階において、解決レベルのそれぞれに相応しい結末を用意せねばなりません。


解決レベルとシナリオのチェックポイントの設定

 解決レベルごとにシナリオが分岐する訳ですが、ではどのような方法でプレイにおける解決レベルを判定するのでしょうか? 結論から言ってしまえば、解決レベルを判定するための詳しい方法を一般化する事は出来ません。解決のための方法、解決の段取り、解決の手順などは、解決すべき目的によって無限に変化します。また、本当に解決に必要な部分だけをクリアすれば良いのか、幾つものチェックポイントを全てクリアせねばならないのか等によって、チェックのための条件は異なってきます。これらを全てを条件に入れた、チェックのための一般式を構築する事は、現実的に不可能であるといえます。
 しかし、理想的なチェック方法の設置が不可能であるにせよ、現実的な範囲内でチェックの方法を考える必要があります。ここでは、各ストーリーラインに依存する形で、解決のためのチェックポイントを設定する事にしましょう。それぞれのストーリーラインによって解決策も異なる訳ですから、ストーリーライン毎にチェックポイントを準備するのは当然だといえます。
 解決レベルのチェックを行う場合には、各ストーリーラインに従ったチェックポイントを準備し、PCの行動とそのチェックポイントとを比較します。その結果として「事件」に対する解決レベルがチェックされるのです。
 つまり、ストーリーラインを選択した時点で、「何を解決するか」が決定され、同時に、何が「完全な解決」であり、何が「失敗」なのかを分けるチェックポイントが設定されるという事でもあります。

 ***ストーリーライン毎に「成功」と「失敗」のパタ−ンをは記すことは可能ではあるでしょう。しかし、あらゆるパタ−ンに明確な回答を用意する事は不可能です。これに対しては各個のマスターの持つ創造性を期待するしかありません。***

 このようなチェックポイントの具体例はシナリオに依存します。ここではストーリーライン毎に、解決レベルチェックのためのどのようなチェックポイントが在るかを例として挙げる事にします。


ストーリーラインによる解決のためのチェックポイントの例

対抗
シナリオの解決条件:勝負が行われ、決着がつく。
解決レベルのチェックポイント:勝利したか、敗北したか。また、問題解決のための他の手段を思い付き、実行したか。

探索
シナリオの解決条件:対象についての情報を探索し、入手する。
解決レベルのチェックポイント:入手した情報の量、正確さ、入手の速度など。

移動
シナリオの解決条件:現在とは異なる場所に移動する。
解決レベルのチェックポイント:目的の場所まで到達できたか、移動最中における被害の度合など。

耐久
シナリオの解決条件:耐久し切る。
解決レベルのチェックポイント:耐久し切る事が出来たか、出来なかったか。被害の度合など。

防護
シナリオの解決条件:防護の対象を全て防護する。
解決レベルのチェックポイント:防護し切れたかどうか、また被害の度合など。

奪取
シナリオの解決条件:奪取対象を全て入手する。
解決レベルのチェックポイント:奪取対象を全て奪取する事が出来たか。全てを奪取できなかった場合、その対象の重要度など。


解決レベルの決定

 解決レベルのためのチェックポイントが設置できたならば、具体的に解決レベル毎の分岐されたシナリオを作成することにしましょう。

ではレベルは幾つに分ければ良いのでしょうか? マスタ−によってこの部分は意見の分かれる所だと思います。「成功」と「失敗」の2分法を取るマスタ−もいるでしょうし、「大失敗」「失敗」「やや失敗」「部分的成功」「成功」「大成功」の6段階に分割するマスタ−もいるでしょう。
 ここでは基本的なパタ−ンとして4段階のレベルを設定する事にします。具体的には「失敗」「不足」「部分的成功」「成功」とします。これらのどのレベルの結末が与えられるかは、実際にプレイを行い、チェックポイントによる判定を行わなくては解りません。ですから、事前に選択肢として用意しておかなくてはならないのです。


解決レベルごとの結末の準備

 ここからは解決の度合毎にシナリオの準備を行うことになります。そこためにはシナリオが失敗したり、部分的にのみ成功した場合と言うものを考えなくてはなりません。マスタ−がこの作業を怠ると、シナリオの途中で分岐が行われなくなってしまいます。一本道のスト−リ−のみが延々と続くシナリオはプレイヤ−にとっては自分の行動が反映されないつまらないシナリオになってしまいます。
 それぞれの分岐に対しては、シナリオを練る以外に作成方法はありません。4レベル分に対して相応しい結末を考えて下さい。
 「失敗」「不足」「部分的成功」「成功」の順で、「当事者」の目的が果たされた度合も上昇し、同時に「当事者」の満足の度合も上昇します。「失敗」と「不足」の場合は目的は果たされておらず、「部分的成功」と「成功」の場合には「当事者」の目的は果たされているとします。
 「当事者」の満足の度合などによって、PCに対する報酬などの面も変更されます。それらの具体的な面を解決するためのフェイズが、次の「離脱」フェイズです。


手助けとヘルパ−NPC

PCの「事件」解決のレベルが「失敗」「不足」の場合、「当事者」によってヘルパ−NPCが投入される場合があります。これはPCによる解決レベルを上昇させるための方策です。


第6節:離脱フェイズのための準備

 離脱フェイズは、シナリオからPCが離脱するためのフェイズです。
 先の解決フェイズによって分類された解決レベルによって、シナリオからの離脱の過程も異なります。解決セクションにおいて課題が解決された場合、及び解決されなかった場合の事態の推移が準備されることになります。
 また、離脱フェイズは、PCが能動的にシナリオに関与出来る最後のフェイズになります。


離脱のための準備
 PCにとってシナリオの核となる「事件」は、PCの関り方が積極的であるにしろ消極的であるにしろ、自分達の日常の外部から持ち込まれたトラブルであると言えます(p***参照)。日常を過ごしていたPCが何らかのきっかけで非日常の世界に導入され、「事件」に関り、その性質を変化させる事が、シナリオのメインの過程となります。そしてPCは「事件」の解決の後で、日常へと戻らなくてはなりません。「事件」はあくまでも「当事者」にとってのものであり、PCはその外側にいるのです。
 このように、離脱フェイズは「事件」の非日常から再びPCが日常に復帰するための重要なフェイズです。そのためには「当事者」と「事件」とPCの関係の決着が必要となります。


離脱の過程と解決レベル

 離脱の過程は、PCの解決レベルによって変化します。
 解決フェイズにおいて、シナリオの進行は、4段階の解決レベル単位に分割されました。このフェイズもその解決レベルによって離脱フェイズで扱う様々な要素が変化する事になります。
 ではここで解決レベルについてもう一度振り返ってみましょう。解決レベルは、「失敗」「不足」「ほぼ成功」「成功」の4段階に分けられます。「失敗」と「不足」の場合は「当事者」の目的は果たされておらず、「ほぼ成功」「成功」の場合には目的は果たされています。
 さて、この結果に対して、「当事者」がどうなるか、「当事者」はPCをどう評価するか、そしてその結果としてPCはどのような過程を経て日常へと帰るかという点が、このフェイズの核になります。そのためにはそれぞれの解決レベルのために準備を行う必要があります。


「当事者」の思惑と成功レベル

 まず、成功レベルから決定しなくてはならないのは、当事者の状態です。「事件」の解決の度合は、そのまま当事者の目的の達成の度合です。「当事者」の状態を決定するためには、素直にそのレベルを反映すれば良いのです。次のコラムでは「当事者」の状態を決定するための目安を挙げます。それらに沿って「当事者」の具体的な境遇を用意して下さい。


「当事者」の状態の決定

「当事者」の目的が果たされている(解決レベルが高い)場合
  この場合、PCが参入した事は「当事者」にとって有益であったと言えます。「事件」は「当事者」にとって有利な方向に変更されています。
 「当事者」はPCのもたらした結果に満足し、PCに対して肯定的な評価をします。解決レベルが「成功」の場合には「当事者」は結果にとても満足しています。PCに対して「当事者」は良好な対応をします。「部分的成功」の場合には「当事者」は結果に納得しています。不足している部分で残念に思っている部分もあるかもしれませんが、「当事者」のPCに対する対応は悪くありません(むしろ良いものです)。


「当事者」の目的が果たされていない(解決レベルが低い)場合
 この場合、PCが参入した事は「当事者」にとって有益でなかったと言えます。「事件」は「当事者」にとって未だ重荷になっています。
 「当事者」はPCのもたらした結果に満足していませんし、PCに対して否定的な評価をする可能性もあります。また「当事者」が「事件」解決自体を諦める可能性もあります。
 解決レベルが「不足」の場合には、「当事者」は納得の行く結果を得られていません。また「事件」自体が解決していないため、「当事者」はそちらに対する対応にも苦慮します。解決レベルが「失敗」の場合には、「事件」は「当事者」にとって全く変化が無いか、更に悪い事になっている可能性があります。「当事者」はそちらに対する対応にも苦慮します。当然ながら「当事者」は不満でしょう。
 どちらにしろ、PCの行為は「当事者」には助力にならなかった訳です。


PCの状態の決定

 「当事者」の状態が決定されたならば、その状態をもたらしたPCの状態も自ずと決定できるというものです。PCに対する評価と報酬を決定するためのポイントを下に挙げましょう。れらに沿ってPCそれぞれについて具体的な境遇を用意して下さい。

「当事者」の目的が果たされている(解決レベルが高い)場合
 PCの評価は上昇します。当然ながら評価は「当事者」及びその関係者によって行われるものです。報酬についての契約があれば報酬は契約通り支払われます。「成功」の場合は契約以上の報酬が支払われる可能性もあります。

「当事者」の目的が果たされていない(解決レベルが低い)場合
 PCに対する肯定的な評価は行われません。報酬についての契約があれば金額などの下方向への修正をするように要求する交渉があるかもしれません。「失敗」の場合は損害賠償などが要求される可能性もあります。


日常への帰還

 PCはシナリオで扱われた非日常の世界から、日常の世界へと帰っていく必要があります。しかし、シナリオからは必ず離脱するとはいえ、その離脱の過程が満足の行くものかそうでないかは、ひとえに解決レベルに依存します。下にその目安を示します。

「当事者」の目的が果たされている(解決レベルが高い)場合
 シナリオからの離脱は容易で、かつPCにとっては満足感を伴うものになります。また、PCは「事件」の解決に成功し、「当事者」の信用を得るでしょう。

「当事者」の目的が果たされていない(解決レベルが低い)場合
 シナリオからの離脱は困難な場合と容易な場合があります。前者は「当事者」がPCに対して「事件」の「再解決」を希望した場合です。この場合再びシナリオ解決のための作業を繰り返す必要があります。また、後者は単に解雇されるという事です。「当事者」の信用は失っています。
 どちらにしろ、PCにとっては納得の行かないものになります。


離脱フェイズの終わりに

 マスタ−がシナリオを準備する際には、以上の様な目安に基づいて、PCがたどる離脱の過程を具体化する必要があります。このフェイズによって語られるべき大きな点は、PCと「当事者」の社会的な立場の変化なのです。
 


第7節:エピローグフェイズのための準備

エピロ−グフェイズについて
 プレイヤ−を離脱させるためのフェイズがこのエピロ−グフェイズです。PCはこのフェイズでは行動は行いません。
PCの解決のレベルによって用意されるエピローグは変化する。

経験点の準備
コネクションについての確認
「事件」の後の経過(各キャラクターごとに)
次のシナリオへの接続
「事件」そのものの経過
などの宣告。

1.シナリオを納得して終了するために
 スト−リ−に完結を求める
  単発シナリオだから。あらゆる単発シナリオは単発の範囲内で結末が与えられるべきです。何故ならば、単発であるという事は、そのシナリオ1回ですべての物語要素に決着をつけねばならないという性質を持っているからです。1本の中で全てのスト−リ−要素が完結する、それが単発シナリオの特徴であり、エピロ−グフェイズの必然です。
 これはキャンペ−ンシナリオとは異なる部分です。キャンペ−ンでは、PCが「事件」解決に失敗した場合でも、その失敗を補うためのシナリオを組み、PCに再び挑戦させるという事も可能です。しかし、単発シナリオの場合では、その様な手段を取る事は出来ません。潔く完結させる必要があるのです。

2.解決レベルに対して素直な終了
 ゲ−ムとしての終了方法としてはこれで良いかもしれないが、シナリオとして見たらどうだろう?

3.例えPCの行動が失敗だったとしても、エピロ−グで「事件」を完結させる。「当事者」がどうなったか、「事件」がどうなったかを述べるのがメイン。キャンペ−ンではない点に注目。

4.「事件」がどう変質したかの宣言
 PCによってどう変わったかの宣言を行う



第9節 シナリオを練ると言う事について

 シナリオを完璧にする事は不可能です。しかし、PCがどのような行動を行ったとしても対応を行う事が出来るように準備を行う事は可能です。このようにとっさにシナリオに記載されている以外の行動に対応する事を、「アドリブ」と言います。

第8節:シナリオの作成過程が完了した後に
シミュレートと様々な条件分岐の設定
シナリオを練り続けるという事
時間軸の管理とそれぞれの人生、それぞれの未来。

以上でストーリーに注目したシナリオの作成については完了。しかしまだ全てではない。ストーリーを実際の運用可能な状態に練るという作業が残っている。次はキャラクターの視点からシナリオを見るという作業を行おう。
NPCの能力値、技能その他の要素は事前に決定する。
今後発行予定のNPC集などを参照にする事。